ワイドバンドギャップ半導体の登場により、これまでシリコン(Si)では実現不可能だった多くのハイパワー・アプリケーションが可能になっています。このブログでは、両者の特性を比較し、シリコン・カーバイド(SiC)が複数の指標において明確な優位点を持っていることを解説します。
1. SiCダイオードは同じ定格電圧でSiよりも省スペース
SiCはSiに比べて最大10倍の絶縁破壊電界強度を持っており、所定のブロッキング電圧に対して、Siよりも薄い高ドープのドリフト層があるため、抵抗率が低く伝導性能が高いという特長があります。そのため、SiCダイは同じ定格電圧のSiダイよりも小型化することが可能です。ダイ・サイズが小さいことにはデバイスの自己キャパシタンスが小さく、所定の電流/電圧定格に対する関連電荷が小さいというメリットもあります。さらに、電子飽和速度が高いことも相まって、Siよりも低損失で高速スイッチングが実現します。
2.SiCダイオードのほうが熱性能が優れている
SiCは熱伝導率がSiの約3.5倍で、単位面積当たりの電力(熱)の放散が大きいという特徴があります。連続で動作をさせる場合、パッケージングが制約要因になることがありますが、SiCは大きな余剰マージンをもっており、過渡的な熱事象の影響を受けやすいアプリケーションでは信頼性が向上します。さらに、SiCダイオードは高温に耐えることができるため、熱暴走のリスクが低く、堅牢な性能と優れた信頼性を備えています。
3.SiCダイオードは逆回復損失が非常に低いため、電力コンバータの効率が劇的に向上する
SiCダイオードは単極性のショットキー金属半導体素子なので、伝導には多数のキャリア(電子)が必要です。そのため、順バイアスのとき、ダイオードの空乏層にはほとんど電荷が蓄積しません。それとは対照的に、P-N接合シリコン・ダイオードはバイポーラなので電荷が蓄積し、逆バイアスに移行する間に除去する必要があります。そのため逆電流にスパイクが発生し、ダイオード(に接続されている)スイッチング・トランジスタやスナバ)内の電力損失が比較的大きいという欠点があります。電力損失はスイッチング周波数が高くなるほど大きくなります。SiCダイオードは逆バイアスのときに自己キャパシタンスの放電による逆電流スパイクが発生しますが、P-N接合ダイオードに比べて1桁以上低いため、ダイオード自体だけでなく、接続されているスイッチング・トランジスタの消費電力が少ないという特長もあります。
4.SiCダイオードの順方向電圧降下と逆方向リーク電流はSiと同程度
SiCダイオードの最大順方向電圧降下は最高水準の超高速Siダイオードと同程度であり、しかも常に改善されています(ただし、高いブロッキング電圧定格では若干の違いがあります)。SiCダイオードはショットキー型であるにもかかわらず、高電圧の逆バイアス時における逆方向リーク電流とそれに伴う電力損失は比較的小さく、同じ電圧・電流クラスの超高速Siダイオードと同程度です。SiCダイオードは超高速Siダイオードに比べて、順方向電圧降下と逆方向リーク電流の変動によって生じる損失がやや大きいですが、逆電荷回復効果がないことによる動的損失の改善があるため、その弱点は補って余りあります。
5.SiCダイオードの逆回復電流は温度に対して安定しており、電力損失が少ない
シリコン・ダイオードは逆回復電流と逆回復時間が温度変化によって大きく変動するため、回路の最適化が難しいという弱点を抱えていますが、SiCではそのような変動がありません。「ハードスイッチ」の力率改善など一部の回路の場合、昇圧回路内の整流器として動作するシリコン・ダイオードが、通常の単相AC入力に対して、大電流での順バイアスから逆バイアス(通常は約400VのDCリンク電圧)に切り替わる際の損失が大半を占めることがあります。SiCダイオードは特性上、こうしたアプリケーションにおいて大幅な効率向上をもたらし、ハードウェア設計の検討が容易になります。
6.SiCダイオードは熱暴走の危険がなく並列接続が可能
この他にも、SiCダイオードにはSiに対する優位点があります。SiCダイオードは順方向電圧降下が(I-V曲線のアプリケーションに関連する領域で)正の温度係数を持つため、並列接続が可能です。そのため、電流の不均衡の改善にも役立ちます。それとは対照的に、Si P-Nダイオードは負の温度係数を持ち、並列接続した際に熱暴走が発生する可能性があるため、大幅なディレーティングや追加のアクティブ回路によって強制的に分流させることが必要です。
7.SiCダイオードは電磁両立性(EMI)性能がSiよりも優れている
SiCダイオードのソフトスイッチング動作にはEMIが大幅に低減するというメリットもあります。Siダイオードをスイッチング整流器として使用する場合、逆回復電流における急激なスパイク(と広い周波数スペクトル)が導電や放射ノイズの発生につながることがあります。これらは(いくつかのカップリング経路を経由して)システム障害を発生させ、その結果、システムのEMI上限値を上回ることがあります。その周波数帯域では電磁結合のためにフィルタリングが複雑になることもあります。また、スイッチング基本波と低調波の周波数(通常1MHz以下)の減衰用に設計されたEMIフィルタは一般的に自己キャパシタンスが高く、高い周波数では効果が低くなります。その場合はスナバをファスト・リカバリ・ダイオードに使用することにより、エッジ・レートを抑制してリンギングを減衰させ、他の部品へのストレス軽減とEMIの低減を図ることができます。ただし、スナバは大きなエネルギーを消費するため、システム効率が低下します。
8.SiCダイオードは順方向回復電力損失がSiよりも小さい
Siダイオードにおける順方向回復は電力損失の原因になりますが軽視されがちです。オフ状態からオン状態に移る際、ダイオードの電圧降下は一時的に増加し、オーバーシュート、リンギング、P-N接合の初期導電率の低下による追加損失が発生します。しかし、SiCダイオードの場合はこの効果がないため、順方向回復損失が問題になりません。
NexperiaのSiCショットキー・ダイオードの製品ラインナップの詳細と一覧については、nexperia.com/sicをご覧ください。